延納について
1 概要
相続税は相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に、現金一括納付をするのが原則です。しかし、相続した財産が不動産がメインだった場合には、すぐに現金化できず現金一括納付が困難であるケースも存在します。
そのような場合には、相続税の申告期限までに納税者からの申請により、5年~20年に分割して納付することが出来ます。これを相続税の延納と言います。
相続税の延納を申請して認められると、借入金の返済のように相続税額を分割して毎年少しずつ納めることができます。取り急ぎ手元にある相続財産の中の預貯金や現金などで相続税の一部を支払い、残りを延納申請することもできます。
2 相続税の延納が適用できる条件
次に掲げる全ての要件を満たす場合に、延納申請をすることができます。
- 相続税額が10万円超である。
- 金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額の範囲内である。
- 延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること。
※延納税額が100万円以下で、かつ、延納期間が3年以下である場合には担保を提供する必要はありません。 - 延納申請に係る相続税の納期限又は納付すべき日(延納申請期限)までに、延納申請書に担保提供関係書類を添付して税務署長に提出すること。
3 延納ができる期間・利子税率・特例割合(平成30年1月1日時点)
延納できる期間と利子税については、相続財産の基礎となった財産の内に占める、不動産の割合に応じて以下のように決まっています。
区分 | 延納期間(最高) | 利子税 | 特例割合 | |
不動産割合75%以上 | 動産等に係る延納相続税 | 10年 | 5.4% | 1.1% |
不動産に係る延納相続税 | 20年 | 3.6% | 0.7% | |
森林計画立木割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税 | 20年 | 1.2% | 0.2% | |
不動産割合 50%以上75%未満 |
動産等に係る延納相続税 | 10年 | 5.4% | 1.1% |
不動産に係る延納相続税 | 15年 | 3.6% | 0.7% | |
森林計画立木割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税 | 20年 | 1.2% | 0.2% | |
不動産割合50%未満の場合 | 一般の延納相続税額 | 5年 | 6.0% | 1.3% |
立木の割合が30%を超える場合の立木に係る延納相続税額 | 5年 | 4.8% | 1.0% | |
特別緑地保全地区等内の土地に係る延納相続税額 | 5年 | 4.2% | 0.9% | |
森林計画立木割合が20%以上の森林計画立木に係る延納相続税 | 5年 | 1.2% | 0.2% |
(国税庁HPより)
4 担保について
相続税の延納をする場合で、延納税額が100万円を超える場合には、担保を提供しないといけません。担保物件は最終的に市場で換金することを前提としているため、売れないような財産では困りますので、国は一定の基準を持っています。
担保物件とは万一、年賦が滞ってしまった場合に、その担保物件を処分して未納額の徴収に充てるためのものです。当然延納額よりも価値が低いものは担保不足となりますし、処分に差し障りのある財産は許可が下りません。
また、担保に提供する額ですが、「延納したい相続税の金額+3年分の利子税」を担保に差し出す必要があります。
①担保物件として認められるもの
財産の種類 | 掛け目(担保価値) |
国債及び地方債 | 額面 |
社債その他の有価証券で税務署長が確実と認めるもの | 時価の8割以内かつ予想される価格変動を考慮した額 |
土地 | 時価の8割以内で適当と認める額 |
建物、立木、登記される船舶などで、保険に附したもの | 時価の7割以内で担保提供期間中に予想される価値の減耗等を考慮した額 |
鉄道財団、工場財団など | |
税務署長が確実と認める保証人の保証 | 滞納となった場合にその保証人から徴収することができると見込まれる額 |
税務署長が延納の許可をする場合において、延納申請者の提供する担保が適当でないと認めるときには、その変更を求めることとなります。
なお、これらの財産は、相続又は遺贈により取得した財産だけでなく、相続人が元々待っていた財産や共同相続人又は第三者が所有している財産であっても担保として提供することができます。
②担保物件として認められないもの
- 法令上、担保権の設定又は処分が禁止されているもの
抵当権を設定できない不動産がこれに該当します。不動産の場合には抵当権の設定登記をしないと第三者への対抗要件となりません。所有者がその物件を売却しようと考えたときに担保の設定がされていないと、いつ売却されてしまうか国はわかりません。ですからこのような不動産は相続税の延納の担保物件としては不適格となります。
- 違法建築や土地の違法利用のための建物除去命令等がされているもの
建物で建築基準法に則って建築されていなかったり、あとで増築した物件等が法令上の制限に抵触している場合、建蔽率や容積率が基準を超えている場合がこれに該当します。
国へ担保として出す訳ですから、法令を遵守していない物件については担保物件としては不適格となります。 - 共同相続人の間で所有権の争いがあるもの
所有者の間で争いがある財産がこれに該当します。
もちろんですが、誰のものかわからないものは担保物件として不適格となります。 - 共有不動産で共有者全員から担保の承諾が得られないもの
共有不動産の場合に、共有者全員から承諾が取れない場合がこれに該当します。
自分の持分の部分だけを担保に設定することは制度上可能ではありますが、持分だけを処分することは難しく一般的ではないので担保物件としては不適格となります。 - 売却できる見込みがないもの
一般的な流通性に欠け、もしもの時に売却して換金できない可能性が高いものがこれに該当します。何のために担保を取得するのかというと万一の場合に換価して未納額を回収するためですから売却できる見込みがないものは担保物件としては不適格となります。
- 担保価値の少ないもの
担保財産の価格が「延納対象の相続税額+3年分の利子税」に満たない場合がこれに該当します。3年分の利子税を加算しているのは、換金処分するに必要な期間の延滞税や処分費用等をあらかじめ想定している為です。
- 担保の存続期間が延納期間よりも短いもの
延納期間よりも担保の存続期間が短い場合にこれが該当します。
何のために担保を徴収するのかというと万一の場合に換価して未納額を回収するためですから当然延納最終期日前に価値が無くなってしまうものは対象になりません。延納期間20年に対して、一般的な自家用車だと不適格となる可能性があります。 - 第三者又は法定代理人等の同意が必要な場合に、その同意が得られないもの
第三者が所有している物件を担保とする場合にその同意が得られないと担保に提供できませんので不適格となります。
5 相続税の延納のメリット・デメリット
- 相続税の延納のメリット
相続税を一括で支払うと生活に支障を与えてしまう様な場合に、相続税を分割することで手元に資金を残すことができ、現状の生活基準を維持することができます。
- 相続税の延納のデメリット
本来払うべき相続税に加え利子税がかかることです。利率によっては不動産等を担保に銀行から借りたほうが利率が安いケースも存在します。
物納について
1 概要
相続税は相続の開始があったことを知った日の翌日から10月以内に、現金一括納付をするのが原則です。しかし金銭一括納付が困難な場合でかつ、延納(分割払い)にしたとしても支払っていくのが困難な場合は、納税者の申請により相続した相続財産自体で相続税を納めることができます。ですがすべての相続財産を相続税の支払いに充てることができるわけでもなく、かつ物納で納める事ができる金額も金銭での納税が困難な額に限られます。つまり現金で払うのが嫌だから、いらない相続財産を相続税の支払いに充てようという考えは通りません。
2 相続税の物納ができる条件
物納が認められるためには、下記の要件をすべて満たす必要があります。
- 延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつその納付を困難とする金額を限度としていること。
詳細な算式は割愛しますが、三か月分の生活費や事業経営に必要な当面の運転資金を考慮して限度額が計算されます。
- 申請財産が定められた種類の財産であり、かつ、定められた順位によっていること。
物納できる財産は限られており、順位も以下の通りに定められています。
順位 財産の種類 第一順位 ・不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式等(社債、株式及び証券投資信託又は貸付信託の受益証券のうち、換価の容易な金融商品取引所に上場されているもの及び証券投資信託の受益証券で金融商品取引所に上場されていないもののうち一定のもの)
・不動産及び上場株式等のうち物納劣後財産(※)に該当するもの
第二順位 ・非上場株式等
・非上場株式のうち物納劣後財産(※)に該当するもの
第三順位 ・動産 ※物納劣後財産…物納劣後財産とは、例えば建築基準法に規定する道路に2メートル以上接していない土地や、事業を休止(一時的な休止を除く。)をしている法人に係る株券など換金が難しい財産をいい、他に物納に充てるべき適当な財産がないと認められる場合に限り、物納に充てることができる財産です。
上記財産は日本国内に存在しているものに限られ、価格は実勢価格ではなく相続税評価額となります。
- 納期限までに申請書及び物納手続関係書類を提出すること。
納期限又は納付すべき日(物納申請期限)までに物納申請書に物納手続関係書類を添付して提出しないといけません。
- 物納適格財産であること。
管理処分不適格財産は物納に供することはできません。
国による管理や処分が困難であるため物納に充てることができない財産を管理処分不適格財産と言います。
具体的には、「担保権の目的となっている不動産」「権利の帰属について争いがある不動産」 「境界が明らかでない土地」などは物納財産として利用することはできません。
3 相続税の物納のメリット・デメリット
- 相続税の物納のメリット
価格が相続税評価額で算定されるので、市場価格よりも相続税評価額が高い場合には売却して相続税を払うよりも有利になります。また市場では一般的に売却が難しい不動産等を物納により処分できる場合もあります。
- 相続税の物納のデメリット
土地を物納する場合には測量、境界確定費用が必要になり、仮に物納が認められなかったとしても返還はされません。また瑕疵担保責任(不動産に不具合があった場合の責任)についても売却であれば1年ですが、物納の場合は5年となりその間に不具合があった場合には納税者が費用負担をしないといけません。